satoyamahanako’s blog

里山で炭を焼いて暮らしています。

アクセルとブレーキ

村の炭焼きの主な出荷先は地元の炭問屋である。
炭問屋はいくつかあるが、一番多くの炭焼きが出荷しているのは農協だ。
移住したときとてもお世話になった炭焼きのベテランさんに「農協にしなさい」と勧められたので、わたしたちも最初は農協に出荷することにした。

そのころ、生産した炭を農協に出荷するのであれば全量出荷すること、という不文律があった。(今もあると思うけれど、当時より縛りはゆるくなっているような気がする)
農協以外に販売することは「横流し」と呼ばれた。
自分で生産した炭なんだから横流ししてもいいんだけど、全量出荷が基本である、という余所者にはちょっと意味が理解できない不文律である。
自分で売ってもいいんだけど、周囲がまあその程度なら許容範囲だよねと認めるくらいの量にしときなさいねという意味だろうと見当をつけた。
といっても、その程度なら、というのが余所者にはやはり分からないのだった。
こういうことは人に聞いて分かるものではない。感覚的なもので、その感覚は人によって微妙に違う。何年か一緒に過ごすうちに体感として判断できるようになる類のことだ。

わたしたちはいずれは直接お客さんと売買したいと考えていた。うちの炭についてお客さんから直接意見を聞きたいからだ。そうしないと上達しない。
でもまあ最初の数年はおとなしく全量出荷をしていた。郷に入れば郷に従え、訳も分からず変なところで突っ張っても仕方ない。まずは村に慣れ仕事に慣れることだ。

そのうちおかしなことに気づいた。
役場の農林業担当者と話していると、役場の施策は農協と組んで行うことが多いのだという。だから個人で販売するとその施策が及ばないことがある。(実際にわたしたちが農協を離れ全量自分たちで販売するようになってしばらく、炭の生産者会議などの場に呼んでもらえなくなったし、情報も回してもらえなくなった。他の生産者から教えてもらってたけど)
その一方で役場は六次産業化の相談窓口を開設している。商品販売のためにHPを開設するなら、それに対して補助金が出るなんてことも書いてあった。

なぜ役場は、片方で六次産業化を謳っておきながら、もう片方では六次産業化をさせまいとするのだろう。
アクセルとブレーキを同時に踏んで、いったい何を達成しようとしているのだろう。
そして、どうして自分たちがアクセルとブレーキを同時に踏んでいると気づかないんだ?小さな役場なのに。
いやそもそもなぜ役場が特定の組織のみを優遇するんだ?

前述の役場担当者による意地悪(と書かせていただきます)は、その後担当者が代わったら、ピタリと止まった。個人で販売していようが、炭問屋に卸していようが、村の産業振興に貢献していることには変わりはないと考える人だからだ。
でもまた別の人が担当になったら、あんたたち農協に卸してないからダメ―って言い始めるかもね。

役場は地域おこしがどうの、地域おこしには住民の皆さんの協力がどうのと口にするけど、役場がアクセルとブレーキを同時に踏んでいては、地域はおきない。
とそのうちどこかで話してみたい。
今までは疑問があっても口にしてこなかった。余所者の遠慮と我慢かもしれない。
でも言い方さえ気をつければ言ってもいいような気がしてきた。