satoyamahanako’s blog

里山で炭を焼いて暮らしています。

少女たちよ

うちから車で2分ほど上流に上ったところに毎年たくさん蛍が飛ぶ。
それはそれはたくさん飛ぶので、川の両端の杉林はクリスマスツリーのようだ。暗闇に緑色の光がポヤーンポヤーンとそこここで点滅するさまは幻想的で、どこか違う世界に入り込んでしまった心持ちがする。
蛍の時期になると近所でもそわそわし始める人が出てくる。楽しみにしている人が多いのだ。「今年は何日ごろが一番多いだろうか」「去年は6日だった」「蒸し暑い日がたくさん飛ぶよ」などと情報交換をしている。わたしたちも毎年出かける。

さて、ある年、その年は例年にも増して蛍が多く飛んでいたせいか、10数名の人がすでに蛍狩りを楽しんでいた。辺りは暗いので誰がいるのかまでは分からない。
車を降り、真っ暗闇のなか、そろそろと川のほうへ歩いていくとき、自然と夫と手を繋いでいた。美しいものは一人で味わうより二人で味わいたい。そんな気持ちだったのだと思う。

それを近所のお姉さま方が目撃していたらしい。
後日、「あんたたち手を繋いでいたでしょ」「婦人会の集まりでその話題で大盛り上がりしたよ」「そうそう、Aちゃんがあんたたちが手を繋いでいるの見つけて教えてくれたー」「夫婦で手を繋ぐんだねー」「すごいねー人前でー」と口々に言われてびっくりした。
お姉さま方はキャッキャ嬉しそうだ。
「あんな真っ暗闇なのに見えたんですか」
「そうよーじっくり見たよー」「仲いいねー」「旦那と手を繋ぐなんて―」「だいたい旦那と蛍を見に行かないよー、ねー?」「絶対行かなーい」「旦那と行ってもねー」「誘っても来ないよー」とまたキャッキャ。
「うちが手を繋いでいたので大盛り上がり?」
「そーよー。わたしたち手なんか繋がないもん。ねー?」「繋がない繋がない」「夫婦で手を繋ぐのは外人さんだけかと思ってた」「手なんか繋がないよねー?」
「あれは真っ暗で足元が危ないから危険防止のためですよ」
「ひゃーっ」「またまたー」「仲いいくせにー」
「これから年取って足悪くなったりするんですから、手をつなぐ練習をしておいたほうがいいですよ。うちはやってます」
「いやー旦那と手なんか繋ぎたくなーい」「無理無理ー」「Bちゃん、あんたは繋いだ方がいいよ」「やだあんなやつ気持ち悪い」とキャッキャ。

少女たちがいる・・と思ったのでした。
いや、少女たちよ、手ぐらい繋ごうよ。たまには。
もう還暦も過ぎて生まれ変わったんだから、旦那さんと手を繋ごうよ。