satoyamahanako’s blog

里山で炭を焼いて暮らしています。

出張床屋

Mさん(男性、80代後半、一人暮らし)が玄関先で髪を切ってもらっていた。若いころ中国を旅していたとき路上床屋をよく見かけたけど、日本ではMさんが初めてだ。前にも見かけたことがあるから、床屋さんは定期的に通ってきているのだと思う。

Mさんのお宅は幹線道路にすぐ面していて、村にしては車通りの多い場所にある。車通りといってもほとんどが地元の人の車で親戚みたいなものだから、髪を切られるほうも恥ずかしくはないんだろうし、見かけるほうも「ああもう自分では床屋に行けないから来てもらって髪を切ってもらっているんだね」と納得する。そんな感じなんだろうな。

昼前の陽がさんさんと降り注ぐ玄関先、椅子に座ってMさんは目を閉じている。いつもの上下ジャージ姿、肩にタオルをかけてもらっていた。
床屋さんは、もうあんまり残っているとはいえないMさんの頭髪を櫛で丁寧に整えた後、小さな毛払いブラシで念入りに首回りや肩先を払う。払っている途中でMさんがすっと立ち上がって、地面を履き始めた。
Mさんはもうしっかりした足取りで歩くことはできなくて、すり足のようにして小股でゆっくりと足を運ぶ。数か月前まではそれでも毎日周囲をのたりのたりと歩いて回っていたが、最近はやめたらしい。見かけなくなった。運転免許はもちろん何年も前に返上している。自分で床屋に通うことはできないのだ。

脇に留めてある床屋さんの自動車にはいくつかの籠が積んであって、そこに髭剃りの道具をしまうのが見えた。髭までそってくれるのかなあ?首筋かしら?
どちらにしても、定期的に髪の毛を整えてもらって小ざっぱりするのって、年をとってからは大切だよなあと思う。自分も年を取ってきて感じることだけど、小ざっぱりしてないとひどく汚らしくみすぼらしく見えてしまう。
Mさんは自分の身なりに頓着する人ではないので、自分で床屋さんに電話して来てもらっているとは思えない。だから床屋さんのほうが気をつけて定期的に通ってきてくれているのだと思う。
商売だからといえばそれまでだけど、身なりにも気を配ってくれる人がいるのはMさんのために嬉しいことだ。床屋さんも村の人で親戚みたいなものだから、気安くいられるし。