satoyamahanako’s blog

里山で炭を焼いて暮らしています。

夏の終わりに

「こんなふうに虫の声を聞きながら死にたいな」と夕食を食べながら夫が言った。
ヒグラシが盛んに鳴いていた。
「病院だと、ピーッみたいな機械音を聞きながら死ななきゃいけないんだよ。嫌じゃん」
ドラマなんかで見る「ご臨終です」と医者が家族に伝える場面が頭に浮かんだ。
患者にいろんな管がついている映像が移り、心臓の動きを示すモニターが映る。
ピーっていってたっけ?
杉浦日向子の「百日紅」のおたかさんみたいなのがいいんでしょ」
「うんそう」
「あれはきれいだったよね」
「でももし家で死にたいって言ったら、苦しいのをものすごく我慢しなくちゃいけないんだよね、きっと。苦しいの我慢して虫の声を聞くか、苦しいのは減るけど機械音を聞くか・・・」

村には公立病院があるだけだ。とても財政的に厳しいこの村に住み続ける限り訪問医療は望めない。最期は入院先で、というのが現実なんだと思う。
ここの病院は、看護師さんたちがとにかく優しいし、窓から山も見えるし、知り合いがたくさん入院していて話し相手には困らないから、入院するならこの病院がいい。
でもわたしたちがもっと老いたころに病院が残っているかどうか。
医療体制に関してだけは田舎に暮らしていて不安を感じる。
ドクターヘリで大きな町の病院に運ばれるのかもしれない。命を救おうと努力してくださる方々に向かって、「村で死にたいんです。山の空気を吸って虫の声を聞きながら死にたいんです」とはなかなか言えるもんではない、なあ。
 
死は自分に属さない、と吉本隆明が言っていた。
自分がどう老い、死んでいくか。選べないのは田舎も都会も関係ないのかもしれないですね。