satoyamahanako’s blog

里山で炭を焼いて暮らしています。

思えば遠くへ来たもんだ

朝、夫とコーヒーを飲んでいた。
稜線のあたりが薄いレモンイエローに染まり始めていた。山村は日が昇るのが遅いのだ。
「俺、こんなに幸せでいいのかなあと最近思うんだよ」と夫が言いだした。
スズメの声が聞こえる。
「空気も水もおいしい良い環境に住めてさ、好きな仕事してさ、犬も猫もいてさ」
数日前までは窓を大きく開けて、洗いたてみたいな新鮮な風を部屋中に流していた。
今朝はもう薪ストーブを焚いている。急に冬の気配がしはじめた。
「今こんなに幸せなら、俺もしかして早死にしちゃうのかな?と思ってさ」

東京を離れることを決断するまでの数年間、夫は表情を無くした人になっていた。いろんな問題を抱え身動きがとれなくなり、感じることをやめたようだった。感情の動きが極端に少なくなった。体調はどんどん悪くなっていったが、仕事を辞めようとしなかった。体調を犠牲にして、彼が思う「普通の生活」を続けようとした。ロボットみたいな動きで。

「もっともっと幸せになるよ」と答えた。
「うん」
「まだまだ一緒にやることたくさんあるよ」

思えば遠くへ来たもんだ。